国際結婚で2言語を使う家庭が、父や母どちらの国でもない第3国に住む場合、子供の言葉はどうしたらよいのでしょうか?
第3国とは第3世界という意味ではなく、父や母どちらの国でもない3つ目の国という意味です。
国際結婚と聞くと思い浮かぶのが、夫または妻の国に定住して、子供を父母両方の言葉でバイリンガルに育てることでしょう。
ところが、グローバル化の進んだ現在は、夫でも妻の国でもない第3国で子育てする国際結婚家族が増えています。
バイリンガル子育てをするだけでも大変なのに、夫や妻どちらの母国でもない国に住む場合、子供の言語はどうしたらよいのでしょうか。
バイリンガル教育を勉強しながら、カナダで2人の子どもを日英仏語で読み書きまでできる高度トリリンガルに育てました。バイリンガル子育ての経験と、国際結婚、駐在や永住家庭などたくさんの家庭のバイリンガル教育を見てきた経験とを元に、数多くのバイリンガル教育の相談を受けてきました。
この記事のおすすめ読者
- 国際結婚家庭の人。
- 海外在住家庭の人。
- バイリンガル子育てに興味のある人。
- 海外ルーツの子供の教育関係者。
【国際結婚家庭の子供の言語】 乳幼児期はどうする?
国際結婚家庭が、日本でもない、結婚相手の国でもない第3国に住む場合、子供の言葉や教育はどうしたらよいのでしょうか。
そして、日本語を含むバイリンガル子育てやマルチリンガル教育をどうしたらよいのでしょうか。
この基本を知っておかないと子供の芯になるべき言葉や文化がぐらつき、ひいては後の学習に影響を及ぼします。
1人1言語で母語を優先
まず、移住した先の国の言葉が、父母どちらの国の言葉でない場合でも、乳幼児期の育児の言葉は親の母語にします。
「母語」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
母語とは、子供が初めて習う言葉という意味ですが、即ち親の言葉、親がそれを使って育児をする言葉という意味です。国際結婚家庭の場合、父と母の2言語が子供の母語となります。
1人の親がそれぞれ1つずつ、自分の母国語で子供に話しかけることを「1人1言語の原則」と呼びます。それが、国際結婚家庭での子供の言語教育の基本となります。
子供に話しかける時、絵本の読み聞かせをする時、家の中でも外でも「1人1言語」で統一します。
ただ、夫婦間の会話言語はどちらの言葉でもよいと思います。どちらの母国語でもない英語を使う国際結婚夫婦も多いようです。
<バイリンガル児の母語や継承語って何?>
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現地語もやはり大事
現地語が英語でない場合、敢えて子供に現地語を教えない家庭も多いようです。
しかし、それは慎重に考えた方がよいでしょう。
将来ずっと住み続けるなら、子供にとってその国が母国となります。子供の交友関係は現地人以外の学校内の人だけでしょうか。現地の人との交流は不要なのでしょうか。現地校に上がる可能性はないのでしょうか。
現地の言葉は後に子供の母国語(第1言語)になりえる大事な言語です。
幼児の間に、歌のかけ流しやオーディオブック、図書館でのプレイタイムや地元の子供と遊ばせるなどして、子供の聞き取り能力が高いうちに十分触れさせておきましょう。
将来現地校に行く可能性もあることを考え、学校に上がってから子供に混乱が起きないようにしておきましょう。
【国際結婚家庭の子供の言語】 学校言語をどうする?
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究で、10歳を過ぎて外国語の勉強を始めると、ネイティブ話者にはるのはほぼ不可能だとあります。(外国語としてなら何歳になっても学習できますが、特に18歳までは文法を習得する能力が持続するようです。)
親の仕事の関係で、海外を転々として暮らす子供の場合は注意が必要です。
しかし、10歳頃までに第一言語(学習言語)がしっかり身に着いていないと、子供が深く思考できて最も使いやすい言葉を持たないダブルリミテッド(セミリンガル)状態になる可能性があります。そうなると学習にも影響があります。
ですから、今の国にどれくらい住むのか、子供は将来どの国に住むのかを見極めながら、子供の第一言語(学習言語)を決める必要があります。
仮住まいならインターナショナルスクールがいいのか?
移住先の社会の言語が英語でない場合、そして、父母のどちらの母国語も英語でない場合でも、「英語は大事だから」「バイリンガルにしたいから」とインターナショナルスクールに入れる家庭が多いようです。
しかし、注意が必要です。
子供の学校言語の決定は、各家庭の考え方や、その国に永住するのか、また他の国に移動するのかによっても変わってくるので、たいへん難しい問題です。
英語が父母どちらの言語でない場合、インターに入れるなら、英語を親に代わってしっかり第1言語までに引き上げてくれる学校選びが大事です。「インターに入れたから英語は安心」とは限りません。
永住なら現地校?
もし、その地に永住するつもりであるならば、そして子供がまだ幼く、現地の言葉を第1言語として身に着けることができるならば、現地校へ通わせて現地語を第1言語とし、親の国の言葉と文化はルーツとして育てるてるほうが自然のように思います。
そして、英語は外国語として身につけさせるとよいでしょう。
しかし、海外を転々と移動する家族の場合はどうしたらよ良いのでしょうか?
その場合は、日本人学校、またはもう一方の親の言葉のインターナショナルスクール、それが無理なら英語のインターナショナルスクールと、学校言語は一貫して1つに絞るほうが良いでしょう。
【国際結婚家庭の子供の言語】 言語と文化の関係とは?
言葉と文化は深く結びついています。
現地の言葉を子供に教えなかった場合、子供が成長期の大部分を過ごす国の文化を深く知ることができなくなります。
母文化を形成するにもタイムリミットがある
子供が成長期(0歳~18歳)の大半をその国に暮らすのであれば、その国の言葉と文化を第1言語と母文化にするのが良いと考えます。
やはり9歳を過ぎると外国文化を自分のものとして受け入れにくくなるので、9~10歳ころまでには母文化を獲得することは必要です。
海外移住する親御さんは、親の母国の言葉や文化が子供の母国語であり母文化になると考えがちですが、それはちょっと違います。
親の文化は子供にはルーツでしかない
国際結婚で第3国に住む場合、親が子供に取り立てて自分の文化を継承するのでなければ、子供の母国となり中心となる母文化はやはり子供が成長する国ではないかと私は考えます。
エスニックコミュニティが大きい中華系やインド系、伝統を重んじるイスラムやユダヤ系ならば、言葉や文化を守ることは、海外でのコミュニティが小さい日本語や日本文化を継承するより易しいかもしれません。
しかし、私がカナダで見てきた多様な移民の子供たちも、やはりどんどん現地化します。
彼らは、私の子供たちも含め、モノリンガル・モノカルチャーなカナダ人とも違い、親の文化とカナダ文化、親の言葉と現地の言葉を融合させたり使い分けながら育ちます。
サードカルチャーキッズ(TCK)
親の国と違う国に住む子供のことをサードカルチャーキッズ(TCK)と呼びます。
国をまたいで移動する子供たちは、親とも現地の人たちとも違う第3の文化を創造するそうです。
TCKは生まれたり幼い時から住んでいる国なのに、自分がどこにも属さない感覚を持ちます。よく言われる「アイデンティティクライシス」です。特に外見が現地の人と違っている場合は、その属さない感覚が強いようです。
また、自分たちが暮らすライフスタイルが現地の一般人とは違う場合、例えば、軍の基地内や外国人ばかりの居留地などで育つ場合も、成長後にその国の文化に属さない感覚を持ちます。
移動が多い親の海外駐在や宣教等で成長期の大半を外国で過ごすが、いずれ母国に帰るTCKの場合も、移住とはまた性質が違ってきます。
TCKについてはこちらの本がよく読まれています。☟
【国際結婚家庭の子供の言語】 日本語教育をどうする?
さて、このような国際結婚家庭の第3国での日本語教育はどうすればよいのでしょうか。
海外での日本語の地位は低い
日本の外での日本人コミュニティはとても小さいので、子供は日本語を習っても使える場所があまりありません。ですので、子供に日本語学習のモチベーションが湧きにくいのです。
大抵の場合、国際結婚で第3国に住む家庭の子供の言語の優先順位は、まずは現地語か世界標準後である英語、そして日本語。もし、移住先の使用言語で、日本語以上に優先順位の高い言葉があれば、日本語の位置はもっと下がるでしょう。
実は、外国人が習う言語として日本語は人気があります。しかし、日本にルーツを持つ子供が継承語として習う日本語とは分けて考える必要があります。
日本ルーツの子どもは、日本語を流暢に話せないと恥ずかしがり、返って日本語から遠ざかろうとする傾向があるように思います。
子供に継承語としての日本語を頑張って身に着けさせるかどうかは、親御さんの考え方次第となります。
日本語を身に着けさせるには
海外に移住した永住者の子供に日本語教育をする教育機関としては、現地日本企業の商工会議所などが運営し、日本政府から校長が派遣されたり資金援助を受けたりしている補習校や、地元日系住民が小規模に運営する日本語学校などがあります。
私の子供たちはカナダで、現地校に通いながら土曜日の補習校で勉強することで、英語と日本語、そしてカナダのフランス語教育によって日英仏語のトリリンガルとなりました。
このように、現地校と日本語学校、特に補習校を併用すると高度にバイリンガルとなる可能性は高くなります。
しかし、マイナー且つ習得が難しい日本語を、子供に海外で身に着けさせるのはとてもたいへんで、親子の相当な努力が必要になります。
日本語もできたらラッキー
海外永住でも、子供のルーツである日本語や日本文化をわが子が身に付けてくれたら、とても喜ばしいことだと思います。
しかし、もし日本語が身に着かなくても、現地の言葉や文化を自分のものとして何不自由なく幸せに暮らしてくれることが、親が最も望むことではないでしょうか。
もし色々手を出して、どの言葉や文化も中途半端になるよりは、じっくり1つの言葉と文化を子供に身に着けさせてあげる方が良いと思います。
【国際結婚家庭の子供の言語】 最後に
出てきた言葉のおさらいをしてみましょう。
母語:子供が生まれて最初に覚える言葉。親の母国語。
母国語:生まれた国の言葉
第1言語:学習して強化され、抽象的思考もできる最も使いやすい言葉。母語ではない場合がある。
母文化:自分の芯となるエスニックグループの文化
カエデが今まで出会ったり、バイリンガル教育のコンサルをした家庭で、最も子供の言葉や文化の教育が難しいと思ったのは、国際結婚で第3国に住む場合で、その中でも頻繁に住む国を変えたり、社会が英語偏重である場合です。(親が現地の言葉より英語教育を優先する風潮のある社会です。)
子供のエスニックアイデンティティと将来の幸せを考慮して、子供に身に着けさせる言葉と文化を選ぶ必要があるでしょう。
バイリンガル教育理論の基礎については、この本を1冊読めばだいたい理解できます。☟
参考資料:MIT New, May 1 2018 ‘Cognitive scientists define critical period for learning language’
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