「9歳の壁」はバイリンガルの分かれ道。英語教育のピークを迎える臨界期や海外での日本語教育など、バイリンガル教育に色々な意味で影響を及ぼします。
9歳は体や心が変化しだす年齢です。外国語を習得する能力も下がり始め、学校での学習もだんだんだん難しくなります。自我が芽生える思春期の入り口で、親御さんの心配事が増えだす年齢ですね。
そして、おうち英語やバイリンガル教育をしているなら、この年齢からがとても難しくなります。
9歳頃になると、体や心、社会生活に次のような変化が子供に表れます。
- 1:外国語を身に着ける能力が下がる
- 2:勉強がどんどん難しくなる
- 3:課外活動が忙しくなり語学学習が後回しになる
- 4:思考が抽象的になるが語彙が追いつかない
- 5:自我が芽生えマイナーな外国語学習を嫌がる
- 6:外国を意識し文化に馴染めない
カエデはバイリンガル教育を勉強しながら、カナダで2人の子どもを日英仏語で読み書きまでできる高度トリリンガルに育てました。そして、駐在や永住家庭など、たくさんの家庭のバイリンガル教育を見てきました。
9歳がなぜバイリンガル教育にとって大事なのか、カエデと一緒に見ていきましょう。
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【英語教育の9歳の壁】その1:外国語を身に着ける能力が下がる
マサチューセッツ工科大学(MIT)は、外国語習得の臨界期について大規模な調査を行いました。
それまではもっと低い年齢で臨界期が来ると思われていました。
しかし、
10歳までに始めるというのは、その言語が話されている国に移住するような、「どっぷりとその言語につかるような状態」になることを指します。
また、幼いうちに外国語を始めると、どんな音でも聞き取れる子供の「黄金の耳」を活用できます。
言語・聴覚科学専門のパトリシア・クール博士は、「赤ちゃんは世の中のどんな音でも聞き取れる」が、成長するにしたがって、聞き分けられる音が、毎日聞く親の言葉や社会の言葉に限定されていき、やがて「その能力は思春期を境に閉じてしまう」と言っています。
カエデは、日本でのおうち英語ならば、ネイティブ並みの発音の綺麗さにはそれほどこだわる必要はないと思っています。なぜなら、「英語はあくまでも外国語」だからです。
それでも、早いうちから外国語に触れさせる方がよいのは、幼いほど母語(日本語)と同じように、真似をしながら楽に子供が英語を覚えられるからです。
ましてや日本国内ではそもそも英語環境が少ないので、それなら早いうちから始めて「総接触量を増やす」しかありません。できれば0歳からかけ流しを始めるとよいでしょう。(ただし、親が発話の呼び水として英語で話しかけるのは3歳頃から)。
【英語教育の9歳の壁】その2:勉強がどんどん難しくなる
小学校も低学年から高学年に移行するこの年齢は、日本でも海外でも勉強が難しくなります。9歳は丁度小学3年生くらいですね。
この年齢から勉強についていけなくなる子供がでてくるように、海外でも現地校や補習校での勉強が難しくなり、永住の子供なら日本語教育が苦痛になっていきます。
そして、だんだんとバイリンガル教育にも影響が出てきます。
私の子供たちが通っていた日本語補習校の幼稚部には、今では国際結婚や移住家庭のお子さんが7割ほど占めますが、9歳を境にどんどん辞めていくようになります。現地校の勉強を優先するためです。
日本での英語教育も、小さいうちは楽しんでやっていても、勉強が忙しくなると英語が後回しになるようです。
【英語教育の9歳の壁】その3:課外活動が忙しくなり語学学習は後回しになる
幼い頃に情操教育や体力向上のために始めた音楽やスポーツの活動が、本格化してくるのも9歳頃です。
音楽の才能のある子供には先生がたっぷりと課題曲の宿題を出したり、スポーツでは遠征試合やコンペティションが増えていきます。
習い事だけでなく、友達との付き合いも子供にとっては大事なことです。土曜日の補習校や日本語学校があると、友達と遊べないし、チームメイトが参加するスポーツの試合に参加できなくなります。
しかし、試合の度に日本語学校を休むと日本語が遅れていき、日本語がわからないと日本語が嫌いになる、という悪循環になります。
また、国際結婚では、外国人の夫が、スポーツに子供を集中させられないと日本語教育に不満が出てくるのもこの年齢です。
外国人夫はイクメンと評判ですが、育児には協力してくれても、本当にバイリンガル子育てに関してもイクメンなんでしょうか? ☝海外では日本人妻と外国人夫の国際結婚カップルが、日本人同士のカップルより圧倒的に[…]
日本での英語教育も、子供が小さい間はあんなに聞かせていた英語のCDも、塾やクラブが忙しくなってくるとだんだん登場しなくなっていきます。
【英語教育の9歳の壁】その4:思考が抽象的になるが語彙が追いつかない
成長して思考が抽象的になってくると、使う言葉が変わります。国語では低学年では訓読み(和語)主体だった言葉も、音読みの漢語が増えていきます。
それにつれて、物事の表面だけでなくその裏にある理由や感情を、言葉で表現できるように練習する年代に入ります。それまでの国語の基礎から、語彙力と作文力を伸ばす年代に入っていくのです。
海外での日本語教育も、漢語が入ってくると一気に難しさを増します。英語のようなアルファベットの表音文字ではない、表意文字である漢字を多用する日本語は、音読するのも難しくなっていきます。
詰まり詰まりの音読では、子供も難しく感じて日本語に興味を失くします。自分の思考に日本語では語彙の伸びが追いつかないのです。
国内のおうち英語では、幼児の聞いて英語を真似していた年代を過ぎ、自分で英語を組み立て自分の言葉で抽象的な内容を話す年代に入ります。
自分の言葉で自由に表現できないと、やがて英語が楽しくなくなり、英語離れを起こします。この年齢までに英語で物語を読む力を着けておき、英語の本でも苦痛のない本好きにしておくと、英語の語彙を増やすことができます。
同時に書く力も伸ばしたいですね。幼児英語を超えた、学習レベルの書ける英語力をどうやって日本で着けるかは、親御さんにとっても難しい課題です。
【英語教育の9歳の壁】その5:自我が芽生えマイナーな外国語学習を嫌がる
自我が芽生えること自体は良いことで自立への第1歩。
しかし、その反面、親の言うことに何でも従わなくなり、納得できる理由がなければ行動してくれなくなります。それが自我が芽生え始めた9歳という年齢です。
海外での日本語教育に最もやっかいなのが、子供の日本語学習に対するモチベーション維持です。海外では使う人が少ない日本語はマイナー中のマイナー言語。
海外の子供は口が達者です。「誰も使っていない日本語をなぜ勉強しないといけないのか。」「なぜ土曜日に他の子供たちのようにテレビでアニメを見たり、のんびりできないのか。」「自分だけ損をしている。」と親を責めます。
子供はずっと先の将来のことなんて考えられません。土曜日に観るアニメのほうが大事なのです。子供に無理強いしているのではないかと、親も子供に責められ決心がグラつきます。
それに比べ、日本での英語教育は、海外での日本語教育に比べると需要は高いし、子供も英語の価値を感じ取ります。
しかし、日本では英語はやはり外国語です。需要は高いものの日常では使う人が少ないマイナー言語です。9歳の子供は人と違う言葉を話すことを恥ずかしがるかも知れません。
【英語教育の9歳の壁】その6:外国を意識し文化に馴染めない
子供は9歳前後で自国の文化と異文化を意識し始め、外国語や外国人は自分の言葉や自分とは違うと感じます。異文化に身を置いても違和感を感じるのです。
幼児は恥じらいなく外国人の真似をしますが、9歳以降に初めて英語や英語文化に触れると、外国語を話すのが恥ずかしかったり、大げさなしぐさを恥ずかしがったりします。
ですから、外国語や外国人、外国文化を異質なものとして受け入れられなくなる前に、スムーズな形で子供に異文化経験をさせる必要があります。この年齢までに外国旅行に連れ出すのはよい経験になるでしょう。
言葉の流丁度と文化理解は深く関係しています。我が家の子供たちは日本語を話せることで、日本語を話さないモノリンガルの日系人に比べて、日本人や日本文化をより深く理解できます。
しかし、日本語が流暢でない日系の子供は、そのことを恥ずかしがり、日本人の前で日本語を話したり日本のことを聞かれることを嫌がります。モノリンガルの日系人は、カナダ人であることをより強調する傾向があるように思います。
まとめ:9歳は通過地点の1つ
9歳は子供が大人になっていく途中の大きな転換期です。バイリンガル教育にも大きく影響します。
☝言語の習得には継続しか方法がありません。
9歳を壁というより「通過地点」と考え、子供の成長を喜び、心の準備をしておくと結果が随分違ってきます。
英語嫌いや日本語嫌いにならないように、うまく乗り越えていきましょう。
参考文献:
MIT New, May 1 2018 ‘Cognitive scientists define critical period for learning language’
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