母語と継承語の違いとは?母語はなぜ大切と言われるのでしょうか。母語と継承語とバイリンガル教育の関係を説明します。
最近「母語が大切とよく聞くのだが、よくわからない」という内容のご相談があります。
など、移住や国際結婚、インターなど、家族の形態や子どもの教育もさまざまだと、子どもの言葉のどれに焦点を当てれば良いのか判断が難しいですね。
母語と継承語は違うものなのでしょうか? 母語とはいったい何なのでしょうか。そして海外で育つ子どもに大切な継承語とは?
この記事を読めば、バイリンガル教育に大切な母語と継承語の役割が理解できます。カナダで子どもを高度トリリンガルに育てたカエデが説明します。
この記事のおすすめ読者
- 国際結婚で子どものいる人。
- 子どもと共に海外移住予定の人。
- 子どもをインターに入れようと考えている人。
【母語と継承語とバイリンガル教育の関係】カナダで継承語教育をした経緯
カエデは、国際結婚をして生まれた子ども2人をカナダに連れてきた時から、子どもたちに日本語を継承しようと考えていました。
そのために、働く私に代わって日本語を母語としてしっかり根付かせるため、日本語保育園に入れました。
6歳から補習校に入れて毎週土曜日はどっぷりと日本語環境に入れました。高校卒業まで12年間、子どもたちは補習校に通いました。
その後も、娘は日本人留学生やワーホリの日本人と交流したり、日本人生徒にオンラインで英語を教えています。
息子は高校卒業後半年間日本でボランティアをしました。そして成人した今も日本語学習を続けています。
2人とも、すぐには幼児の時から外国暮らしであるハーフだとはわからないでしょう。
母語とは何?
「母語」って何でしょうか。
日本国内で日本語だけで育つモノリンガルなら意識せずとも育つ「母語」です。しかし、早期バイリンガル教育や海外転勤、海外移住の際には「母語の確立」に十分気をつけなければなりません。
国際結婚であろうが、海外移住、国内おうち英語教育をする場合でも、しっかりした「母語」なくしてはバイリンガル教育は成功しません。
「母語」の概念はとってもシンプルです。
ですから、海外でも日本人の親なら子どもの母語は日本語であり、国際結婚ならわが家のように2つの言葉が母語になります。
また、日本に親と共に来日した海外ルーツの子どもの母語は、彼らの父母の言葉であり、日本語ではありません。
母語の基礎は6歳までに出来上がる
母語の基礎は6歳頃までに出来上がります。その年齢までに母語をしっかり確立させておく必要があります。
子どもが母語に接する時間を1日12時間だとすると5年間だと21,900時間となります。母語の確立にはタイムリミットがあるので、後戻りして母語を身につけさせることはできません。
将来海外移住するにしても、すでに移住して海外で子育てを始めていても、将来子どもをインターに入れてから海外留学させるにしても、幼児の間は、親が自信を持って完璧に話せる言葉で育児をします。
おうち英語で英語が得意な親ごさんでも、3歳の誕生日くらいまでは英語のかけ流しはしつつも、語りかけは日本語で、しっかり日本語育児をします。
1人1言語で母語を強化する
国際結婚の場合は父母の2言語育児となり、「1人1言語のルール」が基本です。
英語のほうが有用で汎用性があるからと、ネイティブでない英語偏重の育児はしないほうがよいでしょう。
わが家の場合、幼児の間は私は子どもたちに英語で話しかけませんでした。しかし、それでも夫との英語会話から、私の間違った英語や日本語のアクセントが子どもに付いてしまったことがあります。*
(*ここで注意。カナダでの英語は、うちの子どもたちの場合は最も大事な第1言語になるので、特に私の英語の間違いが付かないように注意しました。日本での英語教育は外国語教育なので、そこまで気にする必要はないと思います。よって、おうち英語で親が英語で話しかけてはいけないという意味ではありません。)
継承語とは何?
母語の延長上に「継承語」という言葉があります。
海外に移住し育つ子どもにとって日本語は継承語となります。そして、継承語がマイナー言語である場所では、儚(はかな)く失われやすい言葉です。
移民大国カナダの継承語
カナダの最初の移住者はフランス人でした。
仏系移民の子孫が多いケベック州はカナダで唯一フランス語が公用語の州です。それでも英語の影響力は年々大きくなっています。ケベック州政府はフランス語を守るため必死になって英語の影響力を抑え込もうとしています。
また、他にも、移民が多い中華系やインド系、ギリシャ系などはコミュニティも大きいので、一見彼らの継承語は受け継ぎやすいように思います。しかし、それでも継承語の伝承はなかなか難しいようです。
継承語の学習には親子の忍耐が必要だからです。
海外での日本語
海外での日本語はどうでしょうか。
カナダでは移民の少ない日本語はマイナー中のマイナー言語です。戦前移住者が日本語を保持したのはせいぜい2世くらいまでで、特に戦争があったので親が子どもに日本語を教えなくなりました。今では日本語を話せる3世や4世の日系人はほとんどいません。
そして、私のように戦後移住した日本人の中には、子どもへの日本語の継承にはこだわらない親御さんが多いように思います。
日本語学校へは通わせるが無理をしなくてもよいという考えです。海外での継承語としての日本語教育は本当にたいへんで、(都市部以外では)学校がない、先生がいない、資金がない、国語でも外国語でもない継承語としての適切な教科書がないなど、「ナイナイづくめ」の教育となります。
ですから親御さんも、無理をしてまで日本語を教える価値を見出せないのです。
また、私のように親が子どもに日本語を教えようとしても、マイナー言語なので子どものほうが日本語に価値を見出しにくく、親の押し付けと感じます。
そして、自我が芽生え学習が難しくなる4年生頃になると、子どもの「日本語辞めたいコール」が始まり、親もその反抗に負けて日本語を諦めることになります。
しかし、継承語というのは、小さい頃には分からなくても、成長するとアイデンティティの拠り所となる言葉でもあります。そしてたくさんの子どもが大人になってから、母語(継承語)を失ったことを後悔します。
海外で育つ日本人の子どもだけでなく、たくさんの移民の子どもたちが成長後に、自分が継承語の勉強を嫌がったことを後悔し、親が子どもの「辞めたいコール」で継承語教育を諦めたことを責めるのです。
バイリンガル教育と母語と継承語の関係
バイリンガル教育には母語が非常に重要という研究はすでにされています。
言語の相互依存の法則
継承語教育で有名なカナダのカミンズ博士は、移民の子どもが母語を確立させることは、現地語の習得と学校の学習に非常に有効であるとしています。平たく言うと、「子どもを現地語と学校の勉強ができるようにしたければ母語をしっかり教えなさい。」ということです。
カミンズ博士の提唱する「言語の相互依存の法則」では、子どもが習う複数言語は相互に強め合いながら成長していくとしています。
言い換えると、母語の力が第2の言語を伸ばし、またその反対も起こるのです。そして、「4~8歳ぐらいまでに母語を確立させておくと両言語にプラスになるが、母語が確立していないとその後は母語も現地語も伸びないダブルリミテッド(セミリンガル)になる危険性がある」としています。
継承語教育とアイデンティティ
国境を越えて生活する子どものアイデンティティ確立と情緒の安定にも母語(継承語)教育は大事です。
国によっては髪の色や肌の色で差別を感じたりする場合があるでしょう。その場合、自分の民族の言葉や文化を知り帰属意識を持っていることで、アイデンティティが揺らぎ不安になることを軽減できます。
私の子どもたちは日加ダブル(ハーフ)ですが、見た目は日本人の血が濃く出ていて父親が白人には見えません。(娘のクラスメートが夫を見て、初めて娘がハーフであることを知り驚いていました。)
子どもたちは自分を人種的には「日本人」または「アジア人」と呼び、そこにアイデンティティの揺らぎはありません。私は、子どもたちが自分のルーツである日本語も自由に使え、日本人や日本文化をよく知っていることが、日系カナダ人としての自信に繋がっていると感じています。
継承語と親子の絆
また、母語(継承語)教育は親子間のコミュニケーションと絆を強めるためにもとても大事なものです。
国際結婚で外国に住んでいても、現地語が得意でない母親が子どもに日本語教育をしなかった場合、子どもが幼いうちは現地語でのコミュニケーションが取れていても、会話の内容が子どもの成長と共にだんだんと高度になると現地語で複雑な会話ができなくなります。
現地語で高度な会話ができない母親を軽んじる子どももいます。
また、現在カナダで問題になっているのが、元移民の老親が高齢化で痴呆となり現地語(英語)を話せなくなることです。老人ホームや病院のスタッフとの意思疎通も困難で、悲しいことに親の言葉を話せない子どもとのコミュニケーションもできない状態になっています。
まとめ:母語はとっても大事
このように、母語、継承語とバイリンガル教育には密接な関係があります。
後で現地語が強くなるにしても、まず母語が基礎となることや、アイデンティティや親子の絆に継承語が大事だとお分かりいただけたでしょうか。
子どもに母語(継承語)教育をすることは、さまざまな意味で大事なことだといえるでしょう。
参考にした書籍:中島和子「JHLの枠組みと課題」、ジム・カミンズ「Bilingual Children’s Mother Tongue: Why Is It Important for Education」、山岡俊比古「小学校英語学習における認知的側面」
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